店舗経営・不動産

店舗物件の探し方 完全ガイド|不動産屋の動かし方から立地・交渉まで

なぜ自分で物件を探すと失敗するのか

「物件を探している」という相談を受けると、9割の方が同じことをやっています。スーモやアットホームで条件を入れてスクロールし、気に入った物件に問い合わせる。この順番で動いている限り、まず損します。

自分で探すと何が起きるか。まず情報量が圧倒的に足りません。ポータルサイトに出ている物件は、不動産屋が「広く公開してもいい」と判断したものだけです。店舗物件には、いわゆる「未公開情報」が多く、地場の業者しか持っていない案件、大家が口頭で動かしている案件、近日空く物件の先行情報がそれに当たります。自分で検索している人には、その情報は届きません。

もう一つの問題は、検索で引っかかる物件が「条件で絞られた残りもの」という点です。広い・安い・きれい、という言葉に引きずられて、立地の質を見誤る。店舗経営において物件の良し悪しは最初の5年の損益に直結します。出てしまってから気づいても、撤退するだけで数百万円かかります。

物件は自分で探すものではなく、不動産屋に探させるものです。その前提を変えるだけで、候補の質も量もまったく変わります。

関連:「物件は自分で探すな」不動産屋を巻き込む物件探しのルール

不動産屋を動かす「撒き餌」の作り方

不動産屋は全員を本気で動かしてくれるわけではありません。業者の立場から見ると、何件も紹介したのに「やっぱりやめます」と言う人と、申込から決済まで早く進む人では、動く優先順位が全然違います。つまり、不動産屋が「この人のためなら動きたい」と思う状態を作らないと、本当の意味での情報は出てきません。

まず内見に行くことです。問い合わせだけして「写真で大体わかります」「場所だけ教えてください」では、業者から見て優先度が低い客になります。実際に物件を見に行く、それも複数件見る。この行動が「本気の客」という信号になります。

次に、事業概要を一枚の資料にまとめることをお勧めします。どんな業種か、想定客単価、想定来客数、店舗の規模感、出店経験の有無。これを持って行くだけで、不動産屋から大家への説明が楽になります。大家が審査を通す判断基準は「この店子が家賃を払い続けられるか」ですから、業者が大家に説明できる材料を先に渡しておくわけです。

物件は不動産屋を釣る撒き餌であり、内見は本気度の証明装置です。この発想で動くと、対応の速度と質がまるで変わります。

関連:「物件は自分で探すな」不動産屋を巻き込む物件探しのルール(実践編)

候補物件を5〜6件に増やす手順

多くの方が候補物件1〜2件で申し込もうとします。選択肢が少ない状態で決断すると、その1件が本当に良いのかどうか判断する基準がありません。比較する物件がないと、「気に入ったから」という感情だけで決めることになる。感情で物件を選んだ結果は、現場を見ていると痛いほどわかります。

候補を5〜6件に増やすための基本的な方法は、不動産屋を複数社使うことです。1社だけに頼むと、その業者が抱えている案件しか出てきません。地場の業者2社と、県外または大手の業者1社、合計3社に同時に動いてもらう3社編成が基本です。

3社に対して同じ条件・同じエリアを伝えて競わせると、業者ごとに違う物件が出てきます。重複した物件があれば、それは複数の業者が押している案件ですから、ある意味で信頼性の担保にもなります。そして候補が5件あれば、「この中でどれが一番自分の業種に合っているか」という比較の目が育ちます。

関連:候補物件が1〜2件しかない人が陥る罠と5〜6件に増やす方法

関連:物件候補を増やす3社編成(地場2社+県外1社)の実践法

立地の見極め方——「業種×エリア」で正解は変わる

立地が8割、という言葉は業界でよく言われますが、その8割の意味を誤解している方が非常に多いです。立地が良ければ何をやっても売れるわけではありません。正確に言うと、「その業種にとっての立地」が合っているかどうかです。業種が変われば、求める立地の条件はまったく変わります。

たとえばリラクゼーション系のサロンなら、駅から多少離れていても認知さえ広まれば来店は成立します。一方、飲食店は動線上にいないと入ってもらえない。衝動来店が命の業態は、人の流れが見込める場所でなければ成立しません。これを混同したまま、「家賃が安い」「広い」という理由で立地を決めると、集客に根本的な問題が出てきます。

立地の判断で使える一つの目安が、大手チェーンが出店しているかどうかです。大手はエリア調査に多大なコストをかけています。吉野家の隣に出す、マクドナルドが近くにある、という状況は「市場がある」という証明です。大手の調査結果をタダで活用する発想が、個人の店舗経営者にとってはコストパフォーマンスが高い立地の確認方法です。

逆に言うと、競合がいないから良い場所、と思ってはいけません。競合が来ないエリアは、市場がないエリアである可能性の方が高い。競合密集こそ正解、空白地は罠、という感覚を持っておいてください。

関連:失敗しない立地選定:業種×エリアで変わる「立地8割論」の真実

関連:大手チェーンが出店している場所を見ろ——勝てる立地の見極め方

エリア選定の実務——飲食と商業施設の場合

エリアを選ぶ前に決めておくべきことがあります。どの商圏で戦うのかです。商圏とは「そこに出せば来てもらえる範囲」のことで、業種によって半径が変わります。

飲食の場合、徒歩5〜10分圏内の人口、昼夜人口の差、ランチとディナーどちらで稼ぐか、これらで繁盛立地の条件が変わります。オフィス街と住宅街では、同じ立地でも昼に強い店と夜に強い店が入れ替わります。出店する前に、候補エリアで何時に誰がどこを歩いているかを自分の足で見に行くことが基本です。Googleマップで調べるだけでは足りません。

商業施設への出店は、また別の論理が働きます。家賃が固定ではなく歩合になる場合、MD(商品構成)計画やリーシングの条件交渉が発生します。施設側が出店者に求める条件と、こちらが期待する売上がずれていると、開業後に立ち行かなくなるケースがあります。施設との交渉においても、不動産屋と同様に「相手がYESと言える材料を先に作る」姿勢が必要です。

関連:飲食店の出店エリア選定——繁盛立地の条件と見極め方

関連:商業施設への出店戦略——歩合・MD・リーシング交渉の実務

申込・交渉での正しい動き方

物件が決まったら申込書を出します。このタイミングで多くの方が「家賃をまけてもらえないか口頭で聞いてみる」という行動をとります。これは間違いです。口頭で交渉しても、不動産屋は大家に伝えにくい。大家も根拠なく値下げはしません。

正しい手順は、申込書に希望条件を書き込んで出すことです。希望賃料、礼金の減額、フリーレントの取得、設備負担の要求など、交渉したい条件はすべて申込書に記載します。口頭で「できれば」と言うのではなく、書類で「希望します」と明示する。書いていない条件は最初から諦めたのと同じです。

家賃交渉においては、「相場で動かせ」という発想が通じません。大家が家賃を下げる判断をするのは、稟議が通る論理があるときだけです。空室が続いている、修繕が必要、設備が古い、こういった事実を材料にして、大家が合理的にYESと言える提案を作る必要があります。

居抜き物件の場合は、造作譲渡の交渉も加わります。造作費用を払いすぎると初期費用が膨らみ、資金回収が遅れます。入居してから判明する設備不良に対して誰が費用を負担するか、原状回復の範囲をどこまでとするか、契約書に書かれていない条件は後から揉める原因になります。

関連:居抜き物件開業で家賃月100万削減した実体験と交渉術

関連:店舗物件の失敗を防ぐ家賃交渉の落とし穴と対策

関連:契約直前の罠!店舗物件・FC加盟で失敗しないために知っておくべき本音

よくある質問

Q. 不動産屋は何社に声をかければいいですか?

最低でも3社です。地場の業者2社と、県外または大手の業者1社が基本の組み合わせです。1社だけでは情報の幅が出ません。ただし10社以上に声をかけると管理が煩雑になり、業者側も「本気ではない客」と見なすリスクが出ます。3〜5社が現実的な上限です。

Q. ポータルサイトで見た物件に直接問い合わせていいですか?

問い合わせること自体は問題ありませんが、そこで出会った業者1社に絞り込むのは得策ではありません。その業者との関係を作りつつ、別の業者にも並行して声をかけるのが正解です。物件ではなく不動産屋を選ぶ、という発想を持ってください。自分が求める業種・規模・エリアの店舗物件を多く扱っている業者かどうかを確認することが先決です。

Q. 申込書を出した後でも条件交渉はできますか?

できますが、申込書に書いていない条件を後から言い出すと、業者と大家の両方から「話が変わった」と信頼を失います。交渉したい条件はすべて申込書に最初から入れてください。交渉は申込書で行うものです。口頭での事前打診はほぼ効果がなく、相手に配慮しているように見えても、実際には自分の条件を弱めているだけです。

店舗物件の探し方は、手順と順番を正しく理解するだけで結果が変わります。自分で探すのではなく不動産屋を動かす、候補を複数持つ、立地を業種の視点で見る、交渉は書面でする。この4点が実行できれば、開業後に物件で後悔するリスクは大きく下がります。宅地建物取引士・繁友健志が店舗賃貸借業務を1000店舗以上関わってきた現場で見てきた事実をもとに、このガイドをまとめました。

繁友 健志

店舗情報サービス株式会社 代表取締役
/ 宅地建物取引士

大手チェーンの店舗開発業務に10年以上携わり、出店・賃料減額交渉・貸主負担修繕・撤退・立退き対応など、
店舗物件の賃貸借業務を1000店舗以上経験(すべてテナント側)。
店舗経営者を対象としたコミュニティ「店舗経営者倶楽部」を主宰し、
会員300名超・末端1000店舗超の実践者ネットワークを運営。

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